この頃の私は比較的長い休暇が取れると、インドに通い詰めていた。

実はずーっと前から行ってみたくてしょうがなかったのはトルコ。
毎年夏になると「さあ、トルコのベストシーズンよ!トルコよ、トルコ!」と思うんだけども、 夏のトルコ行きのチケットって高い。
ほとんどの便がヨーロッパ経由だったことが余計にチケットの値段をつり上げていた。

だから、航空券代を見比べると、その半額くらいで行けるインドが魅力的に見えてしまう。
旅行代理店を選べば30日FIXチケットが10万以下で押さえられるモノ。ヘタすると8万台まで下がる。
(※この頃は燃油サーチャージなどかからなかったので、航空券代そのままで飛べた。)

「ラダックもベストシーズンじゃん!そうよ、去年行けなかったラダックに行こう。」

言い訳を探しつつインド行きを決めた途端、パキスタン入国にビザがいらなくなった。
空港でのアライバルビザだけでなく、インドとの国境、中国との国境の陸路2カ所でもビザなしで通過できることになったらしい。

お、これは、パキスタンの国境を越えろって言われてるのね。そうか、そうか、フンザね、カラコルムよね~。
というわけで、トルコに行くはずが、気がついたらパキスタンの山の上に行くことになってしまった。


ところで、若い頃の私は時間をお金で買うという選択をなるべくしたくなかった。
だから旅行代理店に払うマージンも極力控えるべく、インドの観光ビザ取得は今回同行する身内に頼んだ。

この頃はインドへの観光ビザは大使館で直接申請すると、2日で仕上がった。

申請の翌日、ビザの受け取りのために再び大使館を訪れたうちの母は、待合室で名前が呼ばれるのを待っていた。
次々とパスポートを受け取って帰っていく人々を尻目に、今か今かとひたすら待つ。
しかし、待てど暮らせどちっとも名前を呼ばれない。
そして、残すところ、あと10数人というところまで来た。と思ったら、係の人の動きがぴたりと止まってしまった。

「あのう○×ですが、まだですか?」
「○×さん?ああ、えっとまだ処理が終わってませんね」

何故か私のパスポートは保留となって、端に積まれていた。

数分後、残されていた他の人々と共に、母は別室に移された。
恰幅のいいひげ面のインド親父が現れ、パスポートとビザの申請書を見ながら、母に向かって何かしゃべった。

「○×△×□※◎××・・・?」
「は?何いってんの?わかりません!!」
「○×△×□※◎××・・・?」
「だから、わ・か・り・ま・せ・ん!」

きっと、親父は英語をしゃべっていたのだと思うのだが、英語だということすらわからなかったらしい母は、 ひたすら日本語で応戦。
その親父。あからさまに「だめだこりゃ」という顔をしながら、はーーーっとため息をつくと、また訳のわからない言葉(だからきっと英語)で、日本人の女性スタッフを呼び、何かを告げた。

その女性は黙ってその言葉を聞くと、くるっと母に向き直り、こういった。

「ずいぶん、何回もインドに行ってるみたいだけど、何をしに行ってるのですか?
 パスポートをみると他にもアジアの国のスタンプがいっぱい押してあるし・・・。
 本当は観光じゃなくて仕事なんじゃないですか?・・・と彼は言っています。」


・・・そんな質問に母がどう答えればいいのであろうか(笑)

「あんたの仕事はなんだとかいろいろ聞かれたのよ。だけど、あんたがどこで働いているのは知ってるけど、実際に何をやってるのかなんて知らないしさ~」

そりゃそうだな。仕事の内容をいちいち親に報告なんてしません。

「女の人が私の言ったことをそのおじさんに伝えるでしょ。そうすると、また訳のわからない言葉で私のことじーっと見ながら話しかけてくるのよ。全く。だから、わかりません!ってまた言ってやったわよ。」

・・・すまん、母。

最終的に「今度のインド旅行では一体どこに行くつもりなんですか?」と聞かれたらしい。

しかし、当然のことながらそんなこと聞かれても母が知るわけもなく、「うーん、インド・・・インドねぇ・・・」と考え考え、思い出したのがコレ。

「あ!タージマハールのあるところよ!」

さすがに、これ以上聞いても無駄だと思ったのでしょう。 その場でインド政府観光局発行のタージマハールのパンフレットを差し出され解放されたそうです。

「インド楽しんで来てくださいね」との一言つきで(笑)

どうも、私が申請書に馬鹿正直に過去の訪印歴、訪れた都市名を事細かに書いたのが良くなかったらしい。
ああいうのは、今のパスポートに残っているスタンプの分だけ適当に書いておけば良かったのだ。

「インドやアジアの雑貨を仕入れて日本で売ってるんじゃないか?」とかあらぬ疑いをかけられたらしいが、本当の商売人なら、いちいち自分で買い付けに行ったりしないって。旅行代金のほうが馬鹿にならんでしょう?

ところでこの日、母が別室に呼ばれる数分前、ビザを貰って帰ろうとしていた男性が、突然「ああっ!」と大声で叫んだという。
その男は慌てた様子で、窓口に駆け寄り、パスポートを係の女性に見せながらこういった。

「あの~。ビザの発行日、つまり今日は、2001年7月2日ですよね。この有効期限・・・2001年1月1日になってますけど」

この日発行された全てのビザは発行された当日にすでに期限が切れていた

係員の顔はさーっと青ざめ、「すみませんっ。今出て行った方とか呼び止めてくださいっ!」と、その場に残っていた人や帰りかけていた十数人分のパスポートをかき集めた。
慌てて有効期限を修正したものの、その日発行したビザは最初からぜーんぶ間違ったスタンプを押していたらしい。
その上、気がついたのは残りの十数人分になってからである。

最初のほうにビザを貰って帰った人々のパスポートは期限切れのままのはずだし、母の話じゃ「明日からインドに行くんですよ!」なんて言っていた人も結構いたらしい(妙になじんでたんだな、母)
気がついて引き返したとしても、大使館ってお役所だしな~。5時で閉まるしな~。

ちなみに、その日付をどうやって修正したかというと、2001の部分をマジックで塗りつぶして、そのすぐ上の隙間に新たに2002というスタンプを押しただけだった。
・・・それじゃ、どう考えても、期日改ざんしているようにしか見えないと思うのだが・・・。

幸か不幸か。私のパスポートはビザがなかなか下りなかったおかげで、ちゃーんと2002年の元日まで有効になりました。

すでに期限切れだった方々。インドに無事入国できたのでしょうか?