ランカウイ島からマレーシア本土へはいくつもの航路がある。その中で一番フットワークが良いのはクアラケダー行きだった。

ランカウイからクアラケダーへ渡り、そこからアロースターに出て、行けるとこまで南下する計画で船に乗る。
ガイドブックを見る限り、アロースターでクアラルンプールまでのデラックスバスがあるし、それに乗るつもりだった。
この時はまさか10数社はあるバス会社にことごとく満席を言い渡されるとは思っても見なかったのだ。

クアラケダーで船を下り、すぐにアロースターのバスターミナルに向かった。

アロースターからKLまでは、各社1時間に1本くらいのペースでバスを出しているのだが、全ての窓口で「今日のK.L.便はもう1シートも残ってない」とあっさり言い放たれる。

ほとんどの窓口が売る席がないので開店休業状態。 その中で、一つだけ、お客さんへチケットを販売しているのがわかった。

行き先はバターワース。バターワースはマレー鉄道の停車駅がある町でありペナン島へ渡る入り口でもある。
もしかしたらバターワースに行けば、ペナンからの大きなバスを捕まえられるかもしれない。
一縷の望みを託し、バターワース行きのチケットを購入した。

バターワース行きバス
バターワース行きのバス
バターワースのバスターミナルは、屋根がなく、青空駐車場という感じ。
その水たまりだらけの青空駐車場に降ろされ、どうにもこうにもならなかったが、とにかくKL行きのチケットを購入せねばならない。
広場をせかせか歩いていると、客引きにつかまる。

「どこ行くの?」
「KL行きのバスのチケット買いたい。」
「来な。」

案内されたのはとあるバスの前。
いきなりバスに案内されるとも思わず呆然としている私を尻目に、次々に客を捕まえ、トランシーバーでまた別のバスとやりとりを始める。
窓口でチケットを購入するのではなく、直接バスで支払う仕組みみたいだ。

「ま、KLに行くのは間違いなさそうだし。」

クアラルンプールまでは長距離なのでより快適なバスを選びたかったけど、この際そうも言ってられない。
言われるがママに25リンギットを払い、クアラルンプール行きのバスに乗り込んだ。

乗り込んだバスは運転手も車掌もインド系マレー人のおじさん。
浅黒い顔にひげを蓄え、丸々と太った貫禄ある体型は、よく見るインド人親父そのものだ。

しかし、一見普通のこのバス、乗ってみると内装がむちゃくちゃファンシーである。
フロントガラス周りの壁には一面ひまわりの花(勿論、造花)。バックミラーにぶら下がるぬいぐるみ。
そして、そのほかにもこれでもかっと言うくらいにぬいぐるみが隙間無く並べられている。

クアラルンプール行き
【KL行きバス】
ファンシーバス
【車内はファンシー】
乗り込んでから1時間ほどでバスは満席になり、ようやくバターワースを出発した。

クアラルンプールまでは遠いため、バスはすぐさま高速道路に乗ったのだが、しかし、この高速道路がくせ者。
マレーシアの中部は以外と起伏が激しい。
バターワースを出てからというもの、運転手は常にアクセルを全開に踏みっぱなしだったのだが、 30分もすると踏みっぱなしのはずなのに徐々に失速し始め、そのうちにさっき追い抜いたはずのバスに抜かれ、バイクに抜かれ、そのうち「とっ止まるんじゃないの?」と言うくらいにまで減速した。

坂のぼらねぇ~。

エンジン音だけがグオングオンと空しく響き、その横をぴっかぴかのデラックスバスが「ごめんあそばせ」って気取った感じで、静かに、余裕の表情で我々を追い越していく。

さっきまで「おらおらどけどけ~」と粋がってたのはなんだったのか。エンジン焼き切れそうだし・・・大丈夫か?

ほんの少しの丘を、一生懸命がんばって登り切ると(ご苦労さん)、猛スピードで坂を下りきる。
さっき抜かれたバスを再び抜き返したりして、んもー、なんか燃費悪そう・・・。

やっとの思いでタイピン-イポー間の山を一つ越えると、バスはインターチェンジを降りてしまった。
イポーから先はもっと山が険しい。

「もしやこのバス、この先高速を使えないのか?」

あらぬ疑いをかけてしまったが、実は、このバス、イポー経由のKL行きだった。

イポーでお客の一部を降ろし、待つこと1時間弱。既に日はとっぷりと暮れている。いい加減、これ以上客は来ないと思ったのか、運転手は諦めてバスを動かした。

再び壊れんばかりの轟音をたてながら坂を登る我がバス。
しかし、一度上まであがってしまうと、その先はそれほどの高低差がないようで思ったよりは走っていた。
が、問題は別に起こった。交通事故である。

高速道路は他に逃げ道がないだけに、事故が起これば余計に渋滞する。当たり前だがこれは日本だけの話ではない。 このとき既にクアラルンプールまで100キロも離れてなかったように思う。進まないけど、今更行き先も手段も変えられない。

渋滞にはまること1時間余り。先の先でぺしゃんこにつぶれた2台の乗用車の姿を確認すると、バスは少しずつするすると走り出し、「ようやく流れた~」と思ったら、左手に現れたサービスエリアに入った。

乗客は誰も席を立たないし、トイレにもどこにも行かなかった。それでもバスはいつまでも停車している。
そのうちにめがねをかけた中国系の親父が車掌に向かって怒鳴りつけ始め、車掌と親父の大げんかが始まった。

言葉のわからない私にはなんのことやら。親父が怒る理由も乗客を怒らせてまでここにバスを止めておく理由もさっぱり検討が着かない。

停車してから30分ほど経過した頃、隣にするっと1台のバスが止まった。
15人ほどの乗客は全員バスから降りたと思ったら、あれ?このバスに乗り込んでくるんですけど・・・。

隣のバスの客が全て乗り終えると、バスは再び路線に復帰し滞りなく走り始めた。
どうも事故の遅れを取り戻すべく、KL行きの2台のバスを途中で合流させたらしい。
空っぽになった向こうのバスは、そのまま違う町に向かったのだと思う。

車掌は会社に「バスを待ってろ」と言われ、あのめがねの親父は、「いい加減、KLに向かって走れ!ただでさえ遅れてるんだ!」と文句を言っていたのだ。
道理でさっきから車掌の携帯電話が鳴りっぱなしだったわけだ。
携帯で収容可能な人数とか、走ってる場所とか、調整していたのでしょう。

走り出したら後は早くて、15分程で高速を降り、あっという間にKLの町に着いた。

地元の人なら地理もわかる。KLの目前で30分も停められれば、そりゃ、苛つくわ。
既に深夜の0時を回って眠いだろうし、少なくとも2時間は遅れてる。

深夜0時を回って、初めての町に放り出されたこっちもたまらない。タクシーで当たりを着けた宿を次々はしご。
数件目の中級ホテルでようやく空室を見つけ、荷を降ろして、そのまま深夜の屋台に繰り出した。

タイの最南端の町、サトゥーンのホテルを出たのは朝7時。
船を2つにバス2つ。およそ17時間もの間、ひたすら移動を続け、日付が変わってようやくたどり着いたKL。

くくーーっと飲み干したビールの味が・・・染みました。

おまけ:バスで目にした人のふりして我が振り直せな旅人のこと。

バターワースから乗ったバスは、クルーがインド系だったのもあり、車内ではインド映画とかインドのMTVが流れていた。

「お、インド映画。やっぱマレーシアでも流行ってるのね。」と車内の暇つぶしサービスを楽しみ始めた。
インド映画は結構単純なストーリーなので、言葉がわからなくても楽しめるのだ。

映画が始まってまもなく、私の斜め前に座っていた東アジア系の若い女性がすっくと席を立ち、つかつかつかと最前列まで歩いていった。 そして、車掌にひとしきり言いたいことをいうと、顔をゆがませながら戻ってきた。
顔の表情だけで、何か不機嫌なことがありありと伝わる。

車掌さんは女性の後ろ姿をちらりと一瞥し、あきれた顔を浮かべながら、映画のボリュームを下げてしまった。
えー、聞こえないんだけど。

古いバスなので、エンジン音は結構な轟音。ボリュームを最小にされたら、誰も音を聞き分けられない。

「マジかよ~」と思わず漏らしてしまったが、そう思ったのは私だけではないようだ。
1時間くらいしてほとぼりが冷めたところで、車掌はすこーしボリュームを上げた。ほんの少~し。

するとだ。
斜め前で眠っていたはずの女性がいきなりがばっと起きだし、つっかつっかと前に歩いていった。

「うるさいのよ!」
「でも、これくらいにしなきゃ、聞こえないじゃないか。」

車掌も反論するものの(↑会話の中身は勝手な想像)、それでも自己主張をし続ける女。
そのうちあきれて相手にしたくなくなったようで、「わーったよ、小さくすりゃいいんだろ」ってな感じでにらみつけた。

乗客はみーんな「余計なことすんな!」って顔で女を見つめていたが、そんなことは全く意に介さず、 やっぱりものすごい醜い表情で席に舞い戻ってきた。そして、それと同時に、TVの画面が消された。

ひ、ひどくない?

マレーシアって多民族国家だ。だからって、異民族同士ここまで仲が悪いなんて聞いたことない。
まして、インド系移民が多い国ではTV番組などで普通にインド映画を放映していて、インド系以外の民族にも人気があるのだ。
このバスに乗っている人だって、インド系ばかりじゃないけど、きっとインド映画好きだと思うんだけど。

あまりの身勝手さに女性を観察していると、寝るのは飽きたのか、ごそごそと鞄からと本を取り出した。
その表紙に書かれたハングル文字。韓国人だったのか。持ってるのはガイドブックだし、私と同じツーリストだ。

韓国人は自己主張をするとはよく聞くけど、こういうのは自己主張とは言わないと思う。

確かに音楽の趣味って人それぞれで、言葉が全くわからないと単なる雑音になる。
でも、それほど大きな音で流してるワケでも無し、ましてやこれはこのバスから乗客に対してのサービスだ。

エンジンが非力ですいすい坂を登っていかないけど、イポーで寄り道しちゃうけど、ながーい道のりを乗客が退屈しないように、きっとマレー人が好きな映画(もとい、車掌が好きな映画)を放映している。しつこいけど、これはサービスである。

それをこの国をさらりと訪れた旅人がやめさせる権利はないと思うんだなぁ。

韓国人全員がこういう人たちではないし、日本人にも同じようなことをやっている人はいるとは思うんだけど、 外国での行動って、国を代表しているのと同じように見られてしまいます。
このバスに乗っている多くの乗客に悪い印象を与えたと思うんだけど、そういうこと気にするのは私が日本人だからか?

さて、映画が消えて、この女性がおとなしくなったかというとそうでもなかった。

イポーでの長時間停車、渋滞、サービスエリアでの停車。度重なるバスの遅れに苛々するのは、仕方がない。
私も充分苛々していた。でも、それを他人がわかるように、いちいち立ち上がってパフォーマンスするのがうざい。

極めつけは、渋滞後のサービスエリアでの乗客の入れ替えの時。
サービスエリアで乗ってきた乗客の中に、小さな男の子を連れた母親がおり、彼らは運悪く彼女の前の席に座った。
バスが走り出してしばらくしたところで、男の子は気分が悪くなり、バスの中で戻してしまった。

するとその女性は、わざわざ立ち上がりおもいっきり顔をゆがませながら、左手で自分の鼻をつまんで、右手を鼻の前でひらひらと動かす。 「くさーーい」って、もう大人げないにも程があるだろう・・・。

こんなに長いことバスに揺られりゃ、大人だって気分悪くなる。
それを子供が我慢できなくたってしょうがないでしょ?もうすぐKLに着くんだから黙っててよ~。

彼女は、バスに乗ってる間ずーーっと、不機嫌な顔を崩さなかった。少しでも自分が気に入らないことがあると、それを主張した。
正直、見ているこっちが気分が悪かった。

しかも彼女には連れがいた。そっくりの顔をした女性とその彼氏(夫)らしき男。
二人は彼女の態度を全く気にもせず、べたべたといちゃついているだけ。少しくらい注意とかしてくれたらいいのに。

「姉夫婦とマレーシア旅行に来たはいいけど、二人はべたべたして私のこと無視。まったく面白くもなんともないっ。ああ、マレーシアなんて来るんじゃなかったわ?」

なーんて考えているんかなぁ。

朝から晩まで移動し続けて大変だったけど、最後に彼女に出会ったことは気分が悪い出来事だった。
世の中、いろんな人がいるものですね。