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第5話 世界遺産の向こうに沈むサンセット見逃す。[トリニダー]

トリニダーは町全体が世界遺産に登録されたコロニアル都市である。
キューバは、革命後の米国の経済封鎖で物資の不足が続き、国民は自分たちの持ちうる財産を工夫しながら生きてきた。
化学肥料や農機具が手に入らなったことを機に有機農法に切り替え、革命後に亡命したお金持ちの古い邸宅を改造して民家にし、町には何十年前のモノなのか目を疑うようなポンコツクラシックカーが現役で走り回っている。


サンティシマ教会
その逆境が今になって功を奏し、懐古趣味の外国人観光客を集める手段になってしまった。
転んでもただでは起きないというと言い方が悪いが、国民と共にじっと耐えながらがんばってきた指導者フィデル・カストロはつくづく対した人だと思う。

そんな背景もあって今のキューバはどの町に行っても「コロニアル」と一言で表現されてしまうような町並みが残っているのだが、トリニダーが世界遺産に登録された訳は古いからだけではない。

トリニダーの中心部の建物群はサンティシマ教会を中心にして17-18世紀に建てられた大邸宅が連なっている。 それらの建物はパステルカラーで上品に彩られ、足下は石畳でコロニアル風に仕立てている。
これらの古い邸宅を含めた町並みの歴史的価値が世界遺産となった裏付けなのだろうが、そういう歴史的価値などにはとんと興味がない私にはピンと来ない。

ただ、それらをサンティシマ広場の南側から眺めると、広場ににゅーーと伸びた緑鮮やかな椰子の木と、吸い込まれそうな青い空をバックグラウンドにパステルカラーの建物が妙にマッチしてかわいい。
トリニダーはおもちゃ箱みたいな町だな~と思う。

同じキューバの世界遺産でも、バロック調の劇場や要塞など、茶系のどでかい建物が連なるハバナビエハとは雰囲気はかなり異なる。

そんなトリニダー中心部の邸宅は博物館などに改装され、観光名所となっている。

私の場合、博物館の類は見ても記憶に残らないのであまり興味はないのだが、日差しのきつさに辟易し、「涼しかったら嬉しいなぁ」というかすかな期待を胸にロマンティコ博物館に入ってみたけど、やっぱり冷房は効いてなくてがっくり。
逆にチップ目当て?に愛想良く寄ってくる学芸員がめんどくさくて、とっとと出てきてしまった。


「あぢーーー」

そんな独り言を言いながら、太陽の動きにあわせて日陰を追い、少し歩いては休み、
少し歩いては休みしながら町中を散歩していた。

午後3時を過ぎ、日差しが弱まり始めたのを機に町の上へ向かうと、 丘の上に小さな教会跡があった。
教会の脇にはさらに丘の上に向かって道が続いている。
おお、これは行くべきではないのか?

丘を崩して作り始めたばかりと見られる道を少し上へ上がってみると、トリニダーどころか、
数十キロ先の海まで一望でき、素晴らしい景色が広がった。

「おお、これはもっと上に行かなくては」

さらに丘を登り中腹まで来ると、この道を整備したと見られる小型ブルドーザーが停めてあり、
その上でぼーーっと休憩している2人の青年がいた。

「オラ~」(スペイン語でこんにちはの意味)

すれ違いざまに軽く笑顔で挨拶を交わし、さらに登る。
のぼりながら、景色の広がり具合を確かめ、さらにのぼり・・・を繰り返していたのだが、
ふと気が付くと、先ほどの兄ちゃんの一人が後を追っかけて登ってくるではないか。

ええ~、なんで~?


トリニダーを一望する特等席
最初は「あれ?にいちゃん登りだしたな」くらいにしか考えてなかった私も、急に胸が早鐘をうち、あらぬ方向に妄想がふくらみ始める。
というのも、私はキューバの前にグアテマラを経由して来たからである。

グアテマラは治安が悪い
それも観光客があう被害といえば路上での物取りの類だ。
治安が悪いが故に一般大衆も銃器の携帯を許可されているので、
油断していると路上でハンズアップにあうと聞く。

「ボルケーノ(火山)には一人ではなく複数で行こう!」とのアドバイスで、宿で知り合った旅行者が数人固まり、しかも現地の人も多い日曜日に火山に登ったのに、強盗は人目も憚らずライフル片手に草むらから現れ、日本人観光客に一直線。金目のモノは見事にとられた・・・など、生々しい体験談を聞いてきたばかりなのである。

「え?もしかして、追ってきた?私、金目のモノみんな持ってるんだけどどうしよう?!」
セイフティーボックスが備え付けられている高級ホテル泊ならいざ知らず。
わたくしはキューバ人のご家庭に滞在しているのである。
キューバも貴重品、全部持ってくる方が危なかったりするの~?

歩調を早めてがんばるもののすごい早さで登って来る兄ちゃんとの距離はみるみる縮んでいく。
おまけに登り切ったところで丘の頂上にでるだけで、逃げも隠れもできやしないのである。

ざくっ、ざくっ。ざくっ。背後に足音が近づく。

胃がきゅーーーっっと締め付けられる様な緊張に耐えきれず、兄ちゃんより先に登るのを諦めた。
背後から羽交い締めにされるのはコワイ。
兄ちゃんからできるだけ離れるように3メートルある道の反対側に移動して、耳をとぎすます。

そして、まさに彼が追いついてきた瞬間。
ぎゅーーーっと目をつぶって立ちつくす私。う、息止まりそう・・・。(T人T)

ざくっざくっざくっ・・・

私の背後に回った兄ちゃんが首に手をかけ・・・なんてことはなく、
何事もなかったように足音は遠ざかっていった

そしてあっという間に頂上に着いた兄ちゃんは頂上の小さな建物の中に入り、
あちこちをいじり倒しながら点検か何かをしていた。

はいはいはい。わかってます。考えすぎです。

その後、緊張と恥ずかしさが入り交じり、目の前に広がる景色をゆっくり眺める余裕がなくなった。
とっとと退散しようと歩調を早めるも、逆に道を誤ってぬかるみにはまってしまい、
足が抜けなくなる始末。

ぬかるみにはまる

さらにいつの間にか降りてきていた兄ちゃんに「大丈夫?」声をかけられるといたたまれない気持ちになり、
勿論大丈夫ではなかったのだけれども「えへへへ~、大丈夫」と引きつり笑いで交わし、 泣きそうになりながら、ぬかるみから足を抜き、 片足立ちで微妙なバランスを保ちつつ泥に埋まったサンダルをずぼっと抜いた。

ビーサンだったから足は既にどろどろなのだが、万一、足をつこうものなら
今度は足が抜けなくなってどうしようもなくなるのだ。

どうにか泥沼から脱出し、泥がこびりついて2倍以上の重さになったサンダルを引きずりながら、やっとの思いで中腹まで降りてくると、兄ちゃんは2人、相変わらずブルドーザーの上に座り、まぶしそうな目で町を見下ろしていた。

結局、ここが一番の特等席だった。
上に登って泥だらけになって、いらん妄想でドキドキして、何をやっていたんだ私は。


翌朝、朝食の時間に同宿のスイス人女性と一緒になった。

「昨日は何をしてた?トリニダーはどう?」
「丘の上からの景色が素晴らしいよ。天気が良ければ海の向こうに日が沈んで行くのが見えるわよ」
「ホントに?上まで登るとどのくらい時間がかかるの?」
「20分くらいかな」

はい。勿論、私はサンセットなど見ておりませんけど~。
でも、見えるのは事実なのでウソではないのだ。

キューバは周辺諸国に比べるとずっと治安がいいので私の妄想はズレズレではありますが、
丘の泥道に街灯などございませんので、懐中電灯を持って、出来れば複数でお出かけください。
そのうち舗装されるかもしれませんが、2008年10月現在は未舗装。スコールの直後は泥団子要注意!

あー、今更ながら、もったいなかった。夕暮れまで粘れば良かった。


丘の上からの眺め。あいにく雲が多くて眺めはいまいちだった。