第7話 石けんとビニール。物がないのは幸か不幸か?[トリニダー]
【トリニダーで宿泊したカサの中庭の葡萄棚:毎日ジュースやジャムでいただいた】
トリニダーに2泊した朝、朝食を食べた私は荷物をパッキングしていた。
バスの出発は午後2時。私が2日前にトリニダーに到着した時刻も2時だった。
泊まったのはホテルではなく人の家なのでチェックアウトの時間がどうのという細かいことはないけども、
早めに部屋を空けた方がおじいちゃんたちがラクだと思ったのである。
「バスの時間は何時なんだい?」
「えーと、2時です。午後の。」
「そうかそうか。」
バックパックを脇に置き、中庭に隣接したテラスの安楽椅子で本を読む私に話しかけてくるじいちゃん。
でも、聞いたっきり部屋を掃除する様子を全く見せず、そのまま放置されていた。
まあ暗くて狭い部屋にいるより中庭に面した明るいテラスの方がいくぶん過ごしやすいので、
今更部屋に戻る気にもならず。思えば滞在中は気を遣った。ここが民泊のつらさだ。
ところでこの家の中庭にはブドウを育てるための棚が作ってある。
育てたブドウはジュースやジャムになってゲストの朝食や夕食の時に登場していた。
またブドウジュースでも作るのだろう。この家の奥さんが庭に出てきてブドウを摘み始めた。
びっくりしたのがその後。なんと物干しからビニール袋をハズし、ブドウを入れたのである。
そう。日本では使い捨てられていて、「エコバッグ使いましょう」なんていわれてるアレ。
そのビニールを大事に大事に何度も洗って使っていたのだった。
洗って大事に使う。
よーく見てみると、物干しに干されている洗濯物はかなりの年代物。
Tシャツなんてびろ~んと繊維が伸びきって穴が開いているのにまだ捨てずに着ている様子。 バスタオルはもはや長方形の形すらとどめていなかった。
この宿で部屋に案内された時、かなり使い込んだバスタオルを1枚渡されたのだが、 あれ、たぶんこの家で一番良い物だったんだなぁ。
そういえば昨日の散歩中。
あまりの暑さにバテバテだった私は、民家のひさしの下にできた
日陰に座り、水をのみのみ休憩していた。
そんな私に何気なく近づいてきたおばさんが、一人。
「どこから来たの?私には娘がいるのよ。」などと一方的に話し始め、最後に言ったのが次の台詞。
「ところであなた。今ハボン持ってない?娘のためにハボンくれないかしら?」
ハボンって石けんだ。今、持ってるわけないだろう。
その後も歩いている私に向かって民家の中から「ハボン。ハボン」と体をごしごし洗うようなゼスチャーをしながら叫ぶ女性がいたりして、 「一体何がいいたいのだ?」って思っていたんだけど。
そして、このカサパティクールでも「バスタオルは貸してくれるのに石けんはないんだなぁ」なんて
当たり前の様に思っていたんだけど・・・。
ここにきてようやくぴんと来た。物がないんだ。くれって言ってたのか。ハボンを。
キューバはアメリカに意地悪されて物資が足りないってよく聞くけど、こういうことかぁ。
泊めて貰ったカサはとても広くて立派で、テレビもソファもテーブルも調度品もびしっとそろっていて、
おまけに家族みんなの身なりもきちんとしているので、全然そこに繋がらなかった。
思えば、これまで旅した国では「物をくれ」という人は、ドロドロに汚れた服を着ていかにもな感じだった。
キューバは町では物乞いは見ないし、リキシャをこぐような肉体労働の人ですら恰幅がいい。
どんな職業でも給与の差はなく、配給制度で生きるギリギリの食べ物は格安で手に入る。
医療費も教育費も無料。その代わり、がんばって働いても給料が増えるようなこともない。
アメリカと仲が悪くて、慢性的に物不足。
なるほどなぁ。これがキューバ・・・。
私が思うにカサパティクールの営業許可を貰う審査もかなり厳しいのだと思う。
外国人に国民の現状を見られるわけだからそれなりの部屋を持っていることが大前提。
きっと家族の中に英語を話せる人がいないとだめとか、許可を得るためのハードルは高いはず。
初日に私を迎えてくれた女性はきっとこの家の嫁いだ娘かなんかだろう。
私が泊めてもらった部屋も、同宿のスイス人女性の部屋にも個別のシャワーとトイレが付いていた。
日本人の家だってトイレや風呂がいっぱいあるのはお金持ちくらい。
きっと、ここまで家を改装するお金を作るのは大変なことだったはずだ。
数日後、キューバの白砂のビーチが美しいバラデロで循環観光バスに乗り町を眺めていた時のこと。
バスはとある高級リゾートの従業員用の通用門の前を通り過ぎた。
フランスが建てたというそのリゾートは1棟に6部屋ほどしか客室がないコテージがゆったりとした間隔で並ぶ。
その宿泊代は軽く1泊3万円を超えるという。
ちょうど早番の従業員の帰宅時間だったのだろう。かなりの数の人たちが次々と通用門にいるのだが、
そこには2台の長机が並び、警備員が4人がかりで門を出る人全てのカバンを隅々までチェックしていた。
私も自分の生活に全く関係のない豪華な調度品があったとしても「欲しい」とも思わないが、
生活必需品なら話は別。石けんひとつ買うのに苦労していたら欲しくなって当たり前だ。
でも、きっと客の使い古しの石けんのかけらをひとつ持ち帰っただけでもクビになるんだろうなぁ。
そのくらいとっても念入りに検査していた。まるで空港の麻薬検査だよ・・・。
ところで、私は先に書いたとおり、メキシコのカンクンの空港からキューバにやってきた。
数日のメキシコ滞在中、安ホステルからペンション、高級ホテルといくつかのパターンの宿に泊まったが、
どこでも必ずバスタオルと石けんと新品のトイレットペーパーを一巻き渡されるんですね。
(あ、高級ホテルは部屋に備え付けです。)
私は日本から持ってきた石けんがあったのでそのまま使わずにいたのだけども、
こんなことなら貰ってキューバに持ってくればよかった。
職業による給与の差はなくて、生きていくギリギリの生活は保証されている。
病気になっても無料で治療して貰えて、教育費もただだから子供を産むのに躊躇もない。
アメリカに経済封鎖されてからは農作物の有機栽培で農作物の価値を上げ、
医師を育成して医師不足の国への派遣するなど、様々な取り組みが注目されているキューバ。
「キューバは社会主義国家として唯一うまく回っている国だと思うんだよ」
大きな声でそう言う人もいるけど、亡命者が絶えないのもまた現実のひとつ。
競争社会に晒されることがなかっただけに民主主義の厳しさに出戻る人も多いと聞くが、
それでも、やっぱり隣の芝生は青いよなぁ。
職業選択に給与の差がないので、やりたいこと、好きなことを職業に選びやすいけど、
その仕事にやりがいを見いだせなければ終わり。だってやってもやらなくても見返りは同じなんだもん。
その見返り(給与)も生活に充分な余裕ができるほどもらえれば不満もないが、
物が少なくて、欲しくても買えないものが山ほどあれば、そうも言っていられない。
まあ、そんなことキューバ政府もわかっていて、だからバラダール(民営の食堂)やカサパティクールなど、
いわゆる自営業の許可も始めたワケですが(カサパティクールは宿不足を補う意味もある。)、
お金を搾り取る対象として観光客がロックオンされてしまったわけだ。政府公認で。
勿論、これらは観光客を限定にした営業形態ではないけど、観光客からは心おきなくとれるもん。
そして観光客側にしてもカサパティクールやバラダールにお世話にならないことには、
宿も食事もお金がかかりすぎて困るのだから。
ご家族。奥さん不在でした。
私がお邪魔したカサは全て良心的な家族だったからよかったけど、
旅の途中で会った日本人女性がハバナで泊まった家は超ケチで、
朝食の紅茶ポットにお湯を足してもらっただけで追加料金を取られたり、
なんのかんのと難癖を付けて部屋代をつり上げようとしたり、
いちいちイヤな思いをしたらしい。
キューバって争いごとも犯罪も少なくて、一見何でも平等で、気候もよくていい国だなぁ とは思うけど、だからといって私は社会主義として成功している国と断言する気にはなれないし、 今の日本で育ち、それなりの暮らしをできてるだけに「日本に生まれて幸せかも」と思ってしまうのが本音だ。
「でも彼らは違う意味で幸せかもしれないじゃない。」って、それは持ってるものから見た言い分だよ。
なーんの欲も持たず、ある意味解脱しているのならそれはそれで良いですけども、普通は違う。
だから隣の芝生は青いんですよ。
たかが石けんとビニール袋ひとつ。これが私の心の中で複雑に交錯する様になった。
普段の生活で無駄遣いはしてないつもりだったけど、物があふれる時代に育っただけに、
本当の意味で物の大切さはが余りわかってなかったんだなぁ。いろいろ無駄にしてきたなぁ。私。
ま、第一歩は簡単なこと。これからはエコバッグ持って買い物いきます。私。
バスの出発は午後2時。私が2日前にトリニダーに到着した時刻も2時だった。
泊まったのはホテルではなく人の家なのでチェックアウトの時間がどうのという細かいことはないけども、
早めに部屋を空けた方がおじいちゃんたちがラクだと思ったのである。
「バスの時間は何時なんだい?」
「えーと、2時です。午後の。」
「そうかそうか。」
バックパックを脇に置き、中庭に隣接したテラスの安楽椅子で本を読む私に話しかけてくるじいちゃん。
でも、聞いたっきり部屋を掃除する様子を全く見せず、そのまま放置されていた。
まあ暗くて狭い部屋にいるより中庭に面した明るいテラスの方がいくぶん過ごしやすいので、
今更部屋に戻る気にもならず。思えば滞在中は気を遣った。ここが民泊のつらさだ。
ところでこの家の中庭にはブドウを育てるための棚が作ってある。
育てたブドウはジュースやジャムになってゲストの朝食や夕食の時に登場していた。
またブドウジュースでも作るのだろう。この家の奥さんが庭に出てきてブドウを摘み始めた。
びっくりしたのがその後。なんと物干しからビニール袋をハズし、ブドウを入れたのである。
そう。日本では使い捨てられていて、「エコバッグ使いましょう」なんていわれてるアレ。
そのビニールを大事に大事に何度も洗って使っていたのだった。
洗って大事に使う。
Tシャツなんてびろ~んと繊維が伸びきって穴が開いているのにまだ捨てずに着ている様子。 バスタオルはもはや長方形の形すらとどめていなかった。
この宿で部屋に案内された時、かなり使い込んだバスタオルを1枚渡されたのだが、 あれ、たぶんこの家で一番良い物だったんだなぁ。
そういえば昨日の散歩中。
あまりの暑さにバテバテだった私は、民家のひさしの下にできた
日陰に座り、水をのみのみ休憩していた。
そんな私に何気なく近づいてきたおばさんが、一人。
「どこから来たの?私には娘がいるのよ。」などと一方的に話し始め、最後に言ったのが次の台詞。
「ところであなた。今ハボン持ってない?娘のためにハボンくれないかしら?」
ハボンって石けんだ。今、持ってるわけないだろう。
その後も歩いている私に向かって民家の中から「ハボン。ハボン」と体をごしごし洗うようなゼスチャーをしながら叫ぶ女性がいたりして、 「一体何がいいたいのだ?」って思っていたんだけど。
そして、このカサパティクールでも「バスタオルは貸してくれるのに石けんはないんだなぁ」なんて
当たり前の様に思っていたんだけど・・・。
ここにきてようやくぴんと来た。物がないんだ。くれって言ってたのか。ハボンを。
キューバはアメリカに意地悪されて物資が足りないってよく聞くけど、こういうことかぁ。
泊めて貰ったカサはとても広くて立派で、テレビもソファもテーブルも調度品もびしっとそろっていて、
おまけに家族みんなの身なりもきちんとしているので、全然そこに繋がらなかった。
思えば、これまで旅した国では「物をくれ」という人は、ドロドロに汚れた服を着ていかにもな感じだった。
キューバは町では物乞いは見ないし、リキシャをこぐような肉体労働の人ですら恰幅がいい。
どんな職業でも給与の差はなく、配給制度で生きるギリギリの食べ物は格安で手に入る。
医療費も教育費も無料。その代わり、がんばって働いても給料が増えるようなこともない。
アメリカと仲が悪くて、慢性的に物不足。
なるほどなぁ。これがキューバ・・・。
私が思うにカサパティクールの営業許可を貰う審査もかなり厳しいのだと思う。
外国人に国民の現状を見られるわけだからそれなりの部屋を持っていることが大前提。
きっと家族の中に英語を話せる人がいないとだめとか、許可を得るためのハードルは高いはず。
初日に私を迎えてくれた女性はきっとこの家の嫁いだ娘かなんかだろう。
私が泊めてもらった部屋も、同宿のスイス人女性の部屋にも個別のシャワーとトイレが付いていた。
日本人の家だってトイレや風呂がいっぱいあるのはお金持ちくらい。
きっと、ここまで家を改装するお金を作るのは大変なことだったはずだ。
数日後、キューバの白砂のビーチが美しいバラデロで循環観光バスに乗り町を眺めていた時のこと。
バスはとある高級リゾートの従業員用の通用門の前を通り過ぎた。
フランスが建てたというそのリゾートは1棟に6部屋ほどしか客室がないコテージがゆったりとした間隔で並ぶ。
その宿泊代は軽く1泊3万円を超えるという。
ちょうど早番の従業員の帰宅時間だったのだろう。かなりの数の人たちが次々と通用門にいるのだが、
そこには2台の長机が並び、警備員が4人がかりで門を出る人全てのカバンを隅々までチェックしていた。
私も自分の生活に全く関係のない豪華な調度品があったとしても「欲しい」とも思わないが、
生活必需品なら話は別。石けんひとつ買うのに苦労していたら欲しくなって当たり前だ。
でも、きっと客の使い古しの石けんのかけらをひとつ持ち帰っただけでもクビになるんだろうなぁ。
そのくらいとっても念入りに検査していた。まるで空港の麻薬検査だよ・・・。
ところで、私は先に書いたとおり、メキシコのカンクンの空港からキューバにやってきた。
数日のメキシコ滞在中、安ホステルからペンション、高級ホテルといくつかのパターンの宿に泊まったが、
どこでも必ずバスタオルと石けんと新品のトイレットペーパーを一巻き渡されるんですね。
(あ、高級ホテルは部屋に備え付けです。)
私は日本から持ってきた石けんがあったのでそのまま使わずにいたのだけども、
こんなことなら貰ってキューバに持ってくればよかった。
職業による給与の差はなくて、生きていくギリギリの生活は保証されている。
病気になっても無料で治療して貰えて、教育費もただだから子供を産むのに躊躇もない。
アメリカに経済封鎖されてからは農作物の有機栽培で農作物の価値を上げ、
医師を育成して医師不足の国への派遣するなど、様々な取り組みが注目されているキューバ。
「キューバは社会主義国家として唯一うまく回っている国だと思うんだよ」
大きな声でそう言う人もいるけど、亡命者が絶えないのもまた現実のひとつ。
競争社会に晒されることがなかっただけに民主主義の厳しさに出戻る人も多いと聞くが、
それでも、やっぱり隣の芝生は青いよなぁ。
職業選択に給与の差がないので、やりたいこと、好きなことを職業に選びやすいけど、
その仕事にやりがいを見いだせなければ終わり。だってやってもやらなくても見返りは同じなんだもん。
その見返り(給与)も生活に充分な余裕ができるほどもらえれば不満もないが、
物が少なくて、欲しくても買えないものが山ほどあれば、そうも言っていられない。
まあ、そんなことキューバ政府もわかっていて、だからバラダール(民営の食堂)やカサパティクールなど、
いわゆる自営業の許可も始めたワケですが(カサパティクールは宿不足を補う意味もある。)、
お金を搾り取る対象として観光客がロックオンされてしまったわけだ。政府公認で。
勿論、これらは観光客を限定にした営業形態ではないけど、観光客からは心おきなくとれるもん。
そして観光客側にしてもカサパティクールやバラダールにお世話にならないことには、
宿も食事もお金がかかりすぎて困るのだから。
ご家族。奥さん不在でした。
旅の途中で会った日本人女性がハバナで泊まった家は超ケチで、
朝食の紅茶ポットにお湯を足してもらっただけで追加料金を取られたり、
なんのかんのと難癖を付けて部屋代をつり上げようとしたり、
いちいちイヤな思いをしたらしい。
キューバって争いごとも犯罪も少なくて、一見何でも平等で、気候もよくていい国だなぁ とは思うけど、だからといって私は社会主義として成功している国と断言する気にはなれないし、 今の日本で育ち、それなりの暮らしをできてるだけに「日本に生まれて幸せかも」と思ってしまうのが本音だ。
「でも彼らは違う意味で幸せかもしれないじゃない。」って、それは持ってるものから見た言い分だよ。
なーんの欲も持たず、ある意味解脱しているのならそれはそれで良いですけども、普通は違う。
だから隣の芝生は青いんですよ。
たかが石けんとビニール袋ひとつ。これが私の心の中で複雑に交錯する様になった。
普段の生活で無駄遣いはしてないつもりだったけど、物があふれる時代に育っただけに、
本当の意味で物の大切さはが余りわかってなかったんだなぁ。いろいろ無駄にしてきたなぁ。私。
ま、第一歩は簡単なこと。これからはエコバッグ持って買い物いきます。私。