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惨めったらしい大晦日とフィジアン伝統料理のお正月。

ロボを作る
ロボ料理ができあがったところです。

「いらっしゃい。今は(経営者の)息子がいないんだけど、部屋を空けてあげるわ」

ゲストハウスのオーナー家族と思われる女性が現れ、部屋へと案内してくれる。
ワイエボにあるこの宿は「安さ売り」のゲストハウス。
各部屋にシャワーがあって、キッチンが使える割には値段はリーズナブル。
しかし、道路沿いにある建物は同系列のレンタルビデオショップ兼オーナー家族の住む家。
ゲストハウスはその建物の裏にあって日当たりが今ひとつ。部屋は清潔なんだけど、電気が貧弱で暗いのがちょとなー。

180Meridian
日付変更線の碑に乗る
「とりあえず一晩だけここに泊まったら?明日、いいところが見つかったら変えればいいじゃない。」

思っていることが顔に出ていたらしい。もうすぐ日が暮れようとしている今から荷物を背負って宿探しなんてしたくない。

「わかりました。じゃあ、休ませて貰います。」

2002年の大晦日。私は1人でこの宿に泊まることになった。

日暮れ
タベウニのサンセット
十数分後、宿でくつろぐのに飽きた私は島の探索に出ることにした。 4日後にはビジレブ島に渡りナンディから帰国せねばならない。そのためには島を出る船のチケット買っておかなくちゃ。

「あのー、タベウニからスバまでの船のチケットってどこで買えますか?」
「船のことはスーパーの前の店で聞いてごらんなさい。それよりもうすぐスーパー閉まるわよ。明日はお休みだから今のうちに食料買ってきなさいよ。」

この国は休日は町の機能が停止するんだった。レストランも食堂もスーパーもみんな休みで、おまけに食事の準備は自分でしないといけない。めんどいからパンでも買ってこよ。

買い物、チケットは時間切れで売ってもらえず。宿に戻ると、オーナーである息子が現れた。

「初めまして。ところで、今晩、タベウニアイランドリゾートでディナーするんだ。良かったら君もどう?」

普通の家
町は割と舗装が進んでいる。
タベウニアイランドリゾートとは島の北部にある高級リゾートで、一番安い部屋でも1人3万円ほどする。
食事だけだとどの程度か想像できないが、それでもここの宿泊費よりも高いに決まっている。
そんな所に誘われて、気軽に「行く!」と言えると思う?

「でも、家族での食事を邪魔しちゃ悪いし。それより、ドレスを持ってないから。」

そうなのよ。私の旅で高級レストランでの食事は想定していないのだ。

「遠慮しないで。それに服装なんてそれで大丈夫だよ。」

そこまで言われると心が揺らぐ。今日は大晦日。日本人にとっては結構なイベントであるこの日に、この薄暗い部屋でパンでもかじってようと思ったんだもん。私。

「じゃあ、一緒に行く!まだ出ないなら島を散歩してくるね。」

そう言うと私は少し島の探索をしにいった。船着き場を確認しておきたかったのだ。

散歩から戻ったころには日は暮れかけあたりは薄暗かった。宿は静まりかえり、オーナーの母親の見ていたテレビの音もしなければ、きゃいきゃい走り回っていた子供の足音も聞こえない。

「待ってるって言ったのに、おいてかれちゃったのかな?」

人間、誰しも不吉なことは信じたくない。それに私は約束の時間に帰ってきたし、南の島の人はルーズな気がするし、きっと遅れてるだけなのよ。
部屋に戻り、持ってきた文庫本を読みながら帰りを待っていた。
30分過ぎ、1時間過ぎ、気がついたらそのままベッドで眠りこけていて、目が覚めたら夜の7時!・・・やっぱり、置いてかれたーーー!
期待した分、ショックも大きい。「なんだよ~。だったら、1人で食事に行ったのに!」ぶつぶつ言いながら、その辺の食料をつまむ。

そして、それから小一時間ほどして、車のエンジンの音が聞こえてきた。オーナー一家のご帰還のようだ。
あまりに頭に来たので電気を付けたまま寝ているふりをした。今更謝られたりしたくない。
ドアをノックする音も無視。窓の隙間から覗いている気配を感じながらも狸寝入りを決め込むと、こともあろうに発電機のスイッチを切った。
そして、再び自分は車で遊びに行ってしまったのだ。

もう、踏んだり蹴ったりとはこのことだ。
だって、私は夕方から今まで寝てしまったのだ。・・・うう。お目目はぱっちりさえてるのに、真っ暗。
電気がつかなきゃ本も読めない。外に出たってコンビニもない。何もすることがないじゃないか~。

夜中の12時前。自分の時計をじーーっと見つめる。

「そろそろ、年が明けるな~」

ぼーーっと物思いにふけっていると、遠くでわーーーっと歓声があがるのが聞こえた。
そして、パリーーんと瓶が割れる音。だれかビールの瓶を投げつけたなー。

「ふん。ここはタベウニ島のワイエボよ。フィジーの標準時じゃもう新年だけど、本当の日付変更線は島のもっと西なんだから。世界で一番新年を迎えるのが遅いのが、こ・こ・だっ」

タベウニ島は日付変更線がど真ん中をつっきっている珍しい島だ。実際には、島の西も東も同じ時間を使っているけど、理論上はまだ大晦日なの。
ふんっだ。私の時間を返せ~。


大晦日のすっぽかしのお詫びにフィジアンのお正月料理をいただく。

元旦。日本にいたら「正月くらい起きろ~」とたたき起こされて、雑煮でも食べている頃だろう。

今年の私は結構惨めったらしい。

「ディナーの後はニューイヤーパーティーに連れて行ってあげるよ」と言ったここの宿の主は、ふてくされた私を置いてパーティーに出かけた。そして、ご帰還は真夜中で、だから新年早々だーーれも起きてこない。
息子が起きないと発電機を作動するものがいなくて、だから部屋の中は真っ暗のままなのよね。ここ日当たり悪いから。

「ああ、もうっ。気分悪っ。宿変えよ~」

部屋を出たら今度は高さが2メートルはある門がぴっちり閉まっていて、どこまでも頭に来る。わかったよ。よじ登ればいいんだろ。
外は晴天。実にすがすがしい日だ。陰気くさい部屋から出、門をよじ登って・・・まるで脱獄だし。

まずは隣のカンバズモーテルに行ってみる。辺りはしーんと静まりかえり、人の気配がない。
おまけにここも門がぴしゃりと閉まっていて中の様子もうかがえない。客がいなくて営業してないのかも。
次に公衆電話から別のリゾートに電話。「ごめんなさい。今日は満室なの」
いとも簡単に振られがっくり項垂れた。やっぱり、そこそこのレベルの宿は予約客で一杯なんだよね。お正月だもの。

ロボの地中のカマ
大地が釜。ロボ料理を作り中
だめで元々とずっと先にある高級ホテルを伺いに行った。ホテルのロビーは年配の欧米人観光客で一杯。
場違いもいいとこだ。一人で入ることさえはばかられる。

「あきらめっかなぁ・・・。」

とぼとぼと歩いていると、雑貨屋ビルの二階にホテルらしき看板を発見!小綺麗で海に面していて何より明るい!ここだ~!
ホテルのフロントにはだーれもいなかったが、ルームメイクをしているおばちゃんを捕まえた。

「あいにくシービューの部屋は満室よ。でも、新しくキッチンを付けた部屋はどう?」

明るくて、綺麗で、ものすごく広い部屋。もう、絶対にここに決めた。

「すぐに荷物を持ってくるから、部屋を取っておいてね。」

できあがった料理
できあがったロボ料理
ゲストハウスに戻るとやっとオーナーはお目覚めの様で入り口の門が開けられていた。
すぐに荷造りを済ませ、部屋を出たところで息子にばったり。会いたくなかったけど、お金は払わないと。

「私、宿変えるから。これ、部屋代。」
約束の金額を差し出し、そのまま出ようとした。

「昨日はごめん。待っていなくて。帰ったら君は寝てたから謝れなくて。それよりなんでチェックアウトするの?キッチンだったらほらここのを使って。他に何が足りないの?」

謝られるとさすがに文句は言いにくい。

「部屋が気に入らない。本も読めないくらい暗いし。」
「本?だったらこっちの部屋(オーナーの家)で読めばいいよ。明るいし夜も電気は付くよ。他の宿は高いでしょ。」

「高かろうとここよりましなのっ。」とは思ったが、さすがにそこまで言えず。

「とにかくもう約束してきたから。」

この台詞を聞くと息子もさすがに説得を諦めた。

ラヴェニアとセイニー
一緒にごちになった女の子達
「わかった。ホテルまで送るよ。今日は酔っぱらいが多いから歩いて行っちゃだめだよ。」

確かに今朝方もパリーーんとビール瓶が割れる音が遠くに聞こえてきた。
それに実はさっき1人で道を歩いていたら警官に保護されたんだよね。
川から落ちた酔っぱらいの救出に行くと言っていたが、親切半分、職務半分で、パトカーでホテルまで送ってくれたのだ。
日本人の私はただでさえ目立つのに、さらに今日みたいな「酒を飲んだら無礼講」という雰囲気の時じゃ絶対に絡まれるもん。

「ところで、今日は正月だからロボをしてるんだよ。だから荷物を置いたらまた戻っておいで。」

チェックアウトすると言っているのにもかかわらず、正月の宴会に誘ってくれた。
ロボ料理とは、南太平洋で食される伝統の蒸し料理。時間も手間もかかるので特別なときのごちそうだ。
高級レストランに行けば、観光客向けに特別メニューとして出していたりするが、でも、タベウニで高級レストランに行くつもりはなかった。

「え?いいの?参加して?」
「勿論。だから早く荷物を置いてこよう。」

え?ものすごく嬉しい。
反面、チェックアウトしてしまったのが大変申し訳ないのだが、もう気にしてもしょうがない。
ロボ食べたい。ここで遠慮してなる物か。

この日の昼食は、アットホームなフィジアンの正月に混ぜて貰い、オーナー一家やその友達に囲まれ楽しいのなんの。
昨日の落ち込みから比べるとものすごい上昇だ。