ガーデンアイランド タベウニへ。島の人はさらに親切。
スバからタベウニ島行きのプロペラ飛行機。
フィジーの首都スバに二日滞在し、飛行機でタベウニ島へ向かった。
Kさんとはここでお別れ。彼女は一足先に船でスバからバヌアレブ島へ。例え彼女がこの後タベウニに来たとしても、そこはゆっくり長期旅行中。もう再会することはないだろう。
飛行機の機内
しかし、この島を出るとなると話は別で、船は毎日出ていない上にしばしばダイヤが乱れる。
飛行機は船に比べて使いやすいが、値段が高いのはフィジーでも同じ。
でも、時間の限られた旅をしているとよっぽどタイミングが合わない限り飛行機を使わざるを得ない。
この国の休暇の事情や経済状況がよくわからない私は、フィジー入国と同時に観光局、旅行代理店に飛び込んでいた。
同じ南太平洋に浮かぶニューカレドニアでは、正月は現地人の移動が激しく、何ヶ月も前から手配しないと離島には行けないと聞いていた。フィジーも同じ状況だったらちょっと困る。
「この先1週間、この国の休日はいつですか?」
「タベウニ島はお正月ってホテルは一杯になるの?」
「最新の船と飛行機の時刻表を見せてください」
立て続けに質問を浴びせかける私に、観光局のにいさんは淡々と答えた。
ガーデンアイランド、タベウニ
今思えば、「大丈夫なの?島に行ける?ゲストハウスが満室になったりしないの?」と食いつけば食いつくほど、お兄さんはぽかーんとした顔をしていた。12月31日。日本では帰省ラッシュで大混雑の空港も、ウソのように静か。
搭乗手続きを済ませ連れて行かれた飛行機は、シート数20くらいの小型プロペラ機。
搭乗口は一カ所しかなく、パイロットもコパイも客をかき分け登場する。もっちろん、キャビンアテンダントはおりません。
そして、こんなに小さい飛行機なのに乗客はたったの4人だった。
「タベウニは何回目?あの島は素晴らしいよ。ビューティフル」
「なんと言っても機内からの景色が最高だ。ほら、ガーデンアイランドが見えてきた」
飛行機で一緒になったニュージーランド人夫婦は、タベウニ島に来るのは十数回目。
「タベウニではどこに泊まるの?僕は知り合いのとこ。迎えに来てくれるんだ。」
うー、タクシーくらいいるよねぇ?
タベウニ島は椰子が広がる美しい森や透き通った水がさらさらと流れていく小川、湖の畔に咲き誇る花など、その美しさから、別名ガーデンアイランドと呼ばれている。
小さなプロペラ飛行機の高度はほんの数百メートル。離陸してから20分ほどで、その美しい島が目前に迫る。
一面緑に覆われたその島をぐるーーと一回り。島は人の手で手入れされたかのように整然としており、時々切れた緑の隙間には大きな滝が水しぶきを上げている。
日本の国土も恵まれていると思っていたがこの国も負けてない。
ガーデンアイランド。きっかけは、単なるノリだったけど、ちょっと楽しみになってきた。
小一時間ほどのフライトを楽しみ、私はタベウニ島へ降り立った。
超小型機の離着陸しかないタベウニの空港は、空港と言うより単なる空き地。 さっきまで上空から眺めていた森を思うと、ここだけが妙に不自然で、空港を作るために無理矢理に木を伐採したのが見て取れる。
その空き地の隅の掘っ立て小屋で待つこと5分。貨物室から次々と降ろされた10個あまりの荷物が、小さな荷車に積み上げられていく。 待ちきれなかった私は荷車に近づくと自分のザックを引き出した。さて、ここから町までって結構遠いんだよなぁ。
ふと見ると乗り合いタクシーとおぼしきワゴン車が一台いた。これを逃せば恐らくもう足は無くなるはずだ。
運転手に声をかけようと近づいた瞬間、飛行機で乗り合わせたフィジアンのおばさんがぬっと私の目の前に現れた。
「あなた、迎えがいないんでしょ。こっちにいらっしゃい。」
その台詞に「もしかして車に便乗させてもらえるのかな?」と期待を寄せつつついて行くと、おばちゃんは小屋の裏にいた見知らぬ男性に交渉を始めた。「この子、乗せてってやってよ。」って、ええ?私が乗るのはあなたの車じゃないの?
「気にしないで。私の兄さんなのよ。ホテルまで連れて行って貰いなさい」
そう言い残すとおばちゃんは乗り合いタクシーに乗り込んでしまった。
兄さんに送ってもらうのはあなたじゃなくて私で、あなたはタクシーで帰宅するの?いいのかなぁ?
二人の顔を交互に伺いとまどう私をよそに二人は当たり前のように帰り支度を始める。
既にこれは決定事項。兄さんもにっこり笑って「さあ乗って!」。
さわやかだったランニングマン
「よしわかった。」
兄さんは運転席に乗り込むと車のエンジンをぶるるんとかけた。そして、彼は車の外にいた1人の男性に声をかけると、その男性が助手席に滑り込む。だから、私は後部座席でゆうゆうとしていた。だって、この車ランクルなんですよ~。
空港から町中までの道は思いの外綺麗に舗装されており、車はすいすいと進んでいった。
前の二人は空港を出てからずっとしゃべり通し。そのうち助手席の男性が、大事に抱えていた封筒を開封し、中から出てきた手紙を読んだ。
「うわーーーー。」 ←叫んだ。
?!何事?
「○×▽☆××・・・」
ヒゲの親父も大興奮。肩をたたき合ったり、大笑いしたり、私1人が蚊帳の外だ。
「あのー、何かあったんですか?」
我慢できずに話に割って入ると、親父は英語になおってこう答えた。
「いやね、僕ら学校の先生なの。この前、フィジーで全国模試があったんだよ。これ成績表。うちの学校がフィジーで一番!!すごいだろ~」
正月は勿論休みの商店街
「今日はスバから結果が届く日だったから、空港まで取りに来たって訳」
つまり、飛行機の積み荷の中にあった郵便物をひっくり返して、その成績表を取ってきたってこと?
待ちきれない気持ちはわからなくはないが、そういうことが簡単に出来ちゃうのがすごい。つまりそれだけ郵便物が少ないってことと、基本的に島中の人たちが信頼し合っているってことだもん。人の郵便物隠したり盗んだりする人いないんだよね。
「ワイエボに着いたよ。おーーーい、お客さんだぞー。」
約30分弱、車はワイエボに着いた。宿はワイエボに着いたら探そうと思ったのに、気がついたら親父は車を停めて宿に向かって走り出しており、他の宿を見て回る雰囲気ではなくなってしまった。しかもこんなにいい車に乗せてもらって、タダと言うわけにはいかないなぁ。
「公共の交通機関の少ない離島では、有料でヒッチハイクするのが常識」っていう記事をどこかで目にしていたし、そもそもタクシー乗ったら一体いくら取られるんだ。皆目検討つきません。
「あの、フィジーで人の車に乗るのは初めてなんですよ。だからタクシーと同じ料金でいいですか?」
かっこつけて言ってみると、それ以上にキザっっちいことをやられてしまった。
「いや、お金はいらないよ。これは僕から君へのクリスマスプレゼントだ!」
タベウニのとある一角
親父は、そう言うと、さわやかに去っていった。
その時はテストの結果がよっっぽど嬉しくて機嫌が良かったんだなと思っただけだったが、その後もタベウニ島を散歩するたび、何度も「乗っていきなよ、乗っていきなよ」と声をかけられた。勿論、誰もがお金を受け取ってくれない。
交通機関の発達していない離島では、ヒッチハイクという手段が至って普通に行われている。
そして、その辺は持ちつ持たれつというところで、乗せて貰った方は「乗り合いタクシー価格」を払うのが普通だ。
ただで乗せて貰うのが申し訳ないと思う気持ちがある反面、特別扱いして貰えることが素直に嬉しい。
滞在中、道をブラブラ散歩していたらパトカーにまで乗せてもらったりしましたしねぇ。
ほんとうに助かりました。