ラホールおそるべし。泥棒宿でなくても泥棒宿になり得る環境が怖い。
パキスタン名物デコトラ。
これはちょっと地味です。
到着は深夜0時を回ったが、こういう時に一人じゃないのは心強い。
手分けして空いている宿を探し出し、数件目に訪ねた中級ホテルにようやく4人分の部屋を確保。
1泊800ルピーと値段が張るだけあって、お湯もふんだんに出て、久しぶりの熱いシャワーにすっかりリラックスした私は気がついたらふかーい眠りについていた。
翌朝、目が覚めると早速ラホールに向かう準備を始めた。
相変わらずラホールのイヤな噂が頭から離れていない私は、できる限り今日中にインドに入ろうと思っていた。
「ラホールの○○ってホテルに何泊もしたけど大丈夫だったよ」とか、「ラホールフォートのデリーゲートの前にすんごく美味しいアイスクリーム屋さんがあってねぇ」とか、「モスク、きれいだったよ~」とか、 ラホールに滞在したくなるような魅力的な話をいくつも聞いたが、やっぱり泥棒にやられて文無しになるのはイヤっ。
せめて旅の連れがいればなぁ・・・と思ったけど、ここまで一緒に山を下ったメンバーは、それぞれ目的地がムルタン、ペシャワール、タキシラとバラバラで、 インド方面に向かうのは私一人だったのである。
タクシーを拾いラホールに行きたいと告げると、運転手は町はずれのDAEWOO社のエクスプレスバス乗り場に車をつけた。
この会社のバスは町はずれに専用の事務所とバス乗り場を構えている。
不便な場所なので客足が遠のきそうなものだが、乗り心地やサービスはなかなかのもので、多少お金を払って乗るのも悪くはない。
ラホールまでのバスの旅は順調そのもので午後2時半頃にたどり着いた。
順調にいけばこのまま国境を超えられるとは思ったが、中途半端な時間に国境で足止めされるのも嫌だし、意を決してラホールに宿泊することに決めた。
ただし、泥棒宿に当たるのだけは嫌なので、お金は惜しまず中級レベルの宿に飛び込むつもりだ。
ラホールのマクドナルド
バスを降りると、待ちかまえていたリキリャワラに囲まれる。
「ラホールに行くんだろ?100ルピーで行ってやる」「俺は50!」「いや、80ルピーだ」と、方々からかかる声をやり過ごし値段が下がるのを待ってみると、 最終的に30ルピーで交渉が成立したのだが、この男がまたいけ好かない野郎で1キロほど走ったところでリキシャを止め、「ここから先はさらに30ルピーだ」などとぬかす。
「町中のホテルまで30ルピーって約束だろ?ざけんな!」
あまりに頭に来たので、思いつく限りの非難の言葉を浴びせるとリキシャを下りて歩き出した。
おまえがいなくたって他にいくらでもリキシャは走ってんだ~!
当初、リキシャワラはにやにやしながら冗談交じりになにか言いかけたのだが、私が本気で金を払わずに他のリキシャに乗り換えようとしているのを悟り、 「ごめんなさい、ごめんなさい」って、「町中まで30ルピーでいいから乗ってよ。」って、懇願しながらつきまとって来る。
やーだね。自分の言動には責任もってもらおうか。こういうふざけた野郎が一番だいっ嫌いだ。
大きなザックを背負って歩道をすたすた歩く外国人の女。その外国人女の歩調にあわせてそろそろとリキシャを進めながら、 「プリーズ、プリーズ」「30ルピーOK」と叫ぶリキシャワラ。
端から見たらかなり異様で目立っていたらしく、とうとう通行人に説得されてしまい、腑に落ちないながらもそのリキシャに再乗車する羽目になった。 歩いてロスした時間分、値引きさせたいくらいだ。
その後、交渉通りの30ルピーで目的のホテルに無事たどり着いたが、今度は私がチェックインするのを見計らってフロントに近寄り、紹介料を請求していた。
宿泊料は前払いだったので私自身が払う額が増えるわけではないが、まともなホテルなら取り合わないだろう。だめ元でいつもこうやっているのかも。
薄給のリキシャワラが生活していく上で仕方がない行為かもしれないけど、約束は約束。
もっとお金を取りたいなら値段交渉を上手に進めればよろしい。それが商売ってものである。
ムスリムの祈りの部屋。
チェックイン手続きを済ませると、「部屋を準備してるから、しばらく待っていて」というフロントマンの言葉に従い、ロビーのソファで座って待っていた。
待ち始めてから1時間が経過しさすがの私もいらだちを覚え、「部屋に入れるのはいつ?」とフロントに問いただした。
すると、フロントマンは言い訳一つせず、あっさりとボーイに鍵を渡し、私を部屋に案内するよう指示した。
待たされた1時間がなんなのか非常に腑に落ちなかったが、とにかく3階の313号室まで案内され、やっとザックを下ろすことができた。
ボーイはチップを要求することもなく帰っていった。私の部屋、313号室の鍵を持ったままで。
一瞬「あれ?部屋の鍵って普通客に渡さない?」と不審に思ったけど、「もしかしたらこの宿は鍵は都度従業員が開けるのかも。」と納得した。
さっきフロントでやたらと待たされたのは、案内係のボーイがさぼっていたからとかそんな理由だろうと。
この気持ちは中国を旅行したことがある人にはわかってもらえると思う。
中国の安宿ではフロアごとに各部屋の鍵を携えた小姐がいて、部屋に入るたびにいちいちお願いして部屋の鍵を開けてもらわないといけない。
そして、こまめに出入りすると、あからさまにイヤーな顔をされたりするので、あまり部屋から出なくなったり、出たときはなるべく町で時間をつぶしたり、気遣いの日本人になってしまったりする。
「中国近いし。そういう文化がこっちにもあるのかね」なーんて、それ以上深く考えなかった。
しかし、そうはいっても、食事や観光のためには部屋をでる必要がある。
仕方がないので外出時は内側から鍵をかけた。部屋を出るときにドアノブのボタンをポチッと押し、そのままドアを閉めてロックする。
外出から戻り、部屋番号を告げると、今度はフロントマンは背後のキーボックスから一つの鍵を取り出し私に差し出した。
しかし、私はちゃんと「313号室です。」と言ったのにもかかわらず、渡された鍵には312号室のタグが付いていた。
「ああ、大丈夫ですから。ちゃんと開きますよ。」
ってことはタグの付け間違い?客も混乱するしタグを付け替えればいいのに。パキスタンはその辺テキトーなのかね。
とこれまたこれ以上深く考えずにいた。
夕食も済ませ、中級クラスのホテルに腰を落ち着け、シャワーも浴びて。
すっかりくつろぎに入っていたその時、突然、部屋のどこかからゴンゴンと鈍い音が聞こえた。
ここはラホールである。やっぱり、ラホールである。もしかして、天井から誰か降ってくるの?私、女なんだけど。
襲うならかわいい男の子にしておきなよ~。
恐ろしくなった私は、押し黙り、物音も立てず、じーーっと動かず様子をうかがった。
すると今度はゴンゴンっという鈍い音とともに男の声が聞こえる。それも天井ではなくドアのほうから。
ドアをノックする音のようである。
でも、私は一人旅。そんな私のところに訪ねてくる人なんていないのだ。おまえは一体だれだーー!
ちっともドアを開けない私に男はますますいらだち、ドアをばんばん叩きながら叫び始める。
「ハローー。」とか「開けてくれー。」とかいう言葉の節々に「キー」とか「ユアルームキー」とかいう言葉が耳に入った。
・・・わたしの・・・部屋の・・・鍵?
どうやら強行手段で部屋に押し入ろうとしている輩ではないようだ。そして、何か話がしたいようだ。
私はおそるおそる部屋の入り口に近づき、ドアを隔てたまま男に向かって話しかけてみた。
「鍵を・・・。ドアを空けてくれ。君の鍵が必要なんだ。」
「鍵って・・・私、この部屋の鍵しか持ってないんですけど。」
「だからその鍵がないとだめなの。とにかくここのドアを開けて!」
何が一体だめなのかがさっぱりわからないが、とにかく男は鍵がどうのとうるさい。
開けてくれ~、開けてくれ~とドアをばんばん叩きながら、声を張り上げている。
どうも様子がおかしいが、泥棒のたぐいとは思えない。そう思った私は仕方なくドアをすこーーし開けた。
「ああよかった。鍵、鍵を貸してくれ。君が持ってる鍵だよ。ちょっと貸してくれるだけでいいんだ」
よくわからんが、こいつはホテルの人なのか?スペアキーがないホテルなのか?
部屋に押し入る様子もない。ただ鍵を求めている。とりあえずそう判断し、鍵を持ち出し男に差し出した。
「そうその鍵だ。ありがとう。すぐ返すからちょっと待ってくれ。」
男は私から鍵を受け取ると、隣の部屋、つまり312号室の鍵穴にドアを差し込んだ。
そして、ノブをくるっとひねるとガチャ・・・という音とともに312号室のドアが開いたのである。
「助かったよ。ありがとう。じゃあね」
呆然とする私に鍵を差し出し、男は部屋の中に消えていった。
おいおいおいおいおい。つまりこの部屋と隣の部屋は同じ鍵を取り付けてあるってことか!
鍵の意味なーーーーし!いくらなんでも隣の部屋ってのはひどいだろ!!
翌日、午前中くらいはラホール観光しようかなとか、気楽なことを考えていたが、絶対無理!
私が部屋を開けている間に、隣の男が鍵を持ち出し部屋に押し入るかもしんない。荷物が全てなくなるかもしんない。
部屋の鍵が同じなので持ち出す権利はあるところがまた困ったもの。
このホテルのセキュリティはどうなってるんだ?同じ鍵をつけざるを得ないなら、せめて階を変えるとかしないのか?
よりによって、隣の部屋同士が同じ鍵というのはどういう了見か。
その後、誰かが鍵を開けて入ってくるのではないかという恐怖が消えず、落ち着いて眠ることもできなかった。
3階全部の部屋の鍵が一緒だったらもっとお笑いだが。
ユナイテッドホテル様。
エアコン、テレビ、冷蔵庫つき・・・にするよりも、やることあるだろ~!!
まずは部屋の鍵を鍵をきちんとつけてくれ。がっくりですよ。もう。