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シヴァの祭りでメインバザールに行けない旅人。

インドのタクシー
【インドのタクシーといえばTATA。この型のもまだ走ってます。】
デリーのインディラガンディー空港に降り立った。
そう言えば、降機後にこんなに日本人がいっぱいいる状況は初めてだ。 前回はスリランカからのフライトだったから、まわりはスリランカ人やインド人ばかりだったのだ。
でも、意外と1人でいる日本人は少ないみたいだなぁ。みんな飛行機の中で日本人の連れを見つけちゃってるんだろうか。
学生の夏休みのシーズンだから、日本から友人と一緒に来ている人が多いのかもしれない。

ふと辺りを見回すと、両替所の前にインドには不慣れな感じの人の良さそうなお兄さんがいた。 両替が終わったのか終わらないのかなんか落ち着きなく歩き回っている。

「この人は何となくいい人そうだな」とタクシーのシェアを申し出てみると予想通り快く承諾してくれた。
でも、「最初の夜はちょっと不安だから空港でホテル予約しようかなと思ってた」とか言う。
インドを警戒しすぎちゃってる感じがまるで二年前の私の様だった。

でも、空港で予約はちょっとイヤ。そういうホテルは決まって不便な場所にあるのでチェックアウト後の移動に苦労するのだ。
今更、他の旅人捕まえるの大変だし、強引にパハールガンジに連れていくワケにも行かないし・・・。
「今日の宿は高くなっても仕方ないのかなぁ。あのホンダのオヤジの言うようにYMCAかぁ?」などとちょっと妥協しかけた時、大学生らしきカップルが声をかけてきた。

「あのー。どちらまで行かれるんですか?良かったらタクシーシェアしません?」

彼らもパハールガンジのメインバザールに行きたいらしい。おっしゃ。

その人の良さそうなおにーさん(Hさんという)は、本当に人がよかく、しかも押しが弱い。 行き先は有無をいわさずパハールガンジに決定である。
我々はプリペイドタクシーを4人でシェアした。

デリーの空港は二年前とがらりと変わっていた。
空港のタクシーやホテルのカウンターの数は減ってしまった気がする。 改装されて綺麗になっているが、それ以上にとても雰囲気が落ち着いているというか、物静かなのだ。
このインドらしからぬ静けさの原因は、客引きなど余計な人が構内に入れなくなったことにあるようだ。

私は4人のメンバーの中でただ1人、過去に訪印した経験があり、ちょっぴり先輩風ふかした態度をとっていた。
しかし、初っぱなから私の知っているインドとは違っている。内心冷や冷やしたが、それもほんの数分だけ。 タクシーが走り出すと、私の知っているインドの街が現れた。

街灯はほとんどなく、あっても電力が不安定なため、薄暗い。頼りなげなオレンジ色の光がかすかに町を照らしている。
そして、我々の車のヘッドライトが前を走るオートリキシャの黒々とした排気ガスを浮かび上がらせ、より一層町の暗さを際だたせている。
バイクとオートリキシャの排気音がけたたましく行き交い、運転手はところかまわずクラクションを鳴らす。
ああ、なんだか懐かしい。二年前はこの道が怖くてたまらなかったんだよなぁ。

空港からメインバザールまでは車で約1時間ほどかかる。
「これから何処に行くつもりか」「今までにどんな国に行ったのか」、旅人が交わすお決まりの会話で何となく時間をつぶしていた。

30~40分くらいたった頃だろうか、車は街の中心にさしかかってきていた。
こぎれいなショップや高級ホテルなど、都会を象徴するかのような建物が多くなってきて、「もうそろそろみたいだね」なんて話していた矢先に車はきゅーーっと大通りを曲がり、一軒の旅行会社の前で停車した。

「ホテルの予約してないんだろ?ここで安全で快適な宿を予約できる。」

大きなお世話である。

我々はパハールガンジまで連れて行けとお願いしただけであって、ホテルの予約なんて必要ない。
ああもうっ、どうしていつもこうなんだ~。

実はこの車に乗り込むとき、1人の男が我々の車に勝手に乗り込もうとしていた。
この様な男と運転手が結託して、無理矢理高額の手配旅行の契約をさせられたりすることは、 インドでよくあるトラブルの一つである。
しかし、我々の運転手は男を手で押しのけ、車に乗せなかった。
「お、この運転手はいい人かも」と思わせるには充分なパフォーマンスだ。

その運転手がこうやって、ワケのわからぬ旅行会社の前に車をつける。

「大丈夫だ。この旅行会社は信用できる」

だから、そう言う問題じゃないんだよ。それこそあなたの信用ここでがた落ち。
昼間だったら降りて別の車を拾うところだが、今は夜。ここが何処かはわからないし、降りたら負けだ。

「私たちは別にホテルの予約なんか必要ないの。とにかくメインバザール(※パハールガンジは通常こう呼ばれることが多い)に行ってよ」
「なんで?メインバザールは危険だ(これもよくある台詞)。ここで、安全で快適な宿を予約すべきだ」
「わかった。メインバザールが危険と言うならば、ニューデリーの駅まででいいよ。駅まで行って。」
「駅?リタイアニングルームにでも泊まるつもりか?あそこは全然快適じゃない。それより・・・。」


堂々巡りとはこのことだ。彼はただ旅行会社からコミッションをもらいたいだけだろうが、我々は今晩のホテルの予約だけで済まされないのは必至である。
インドに来てパハールガンジに泊まりたがるということは、十中八九これからインドを回るつもりの旅行者だ。
観光をする時間がたっぷりあるのは明らかだし、着いたばかりで金もたんまり持っている。
だからこういう風に頼んでもいないのに連れてこられる様なケースでは、半ば強制的に高額のツアーを組まされたりすることが多い。あくどい旅行会社のやり口である。
冗談ではない。ワケのわからないツアーなんて組まされてたまるか。

しかし、いくら拒否しても運転手は車を動かそうとしない。
我々も車から降りる気はさらさらない。両者一歩も引かぬまま時間ばかりが過ぎていった。

そのまま数分が経過し、ふと車の後方に目をやると、窓の外に1人の日本人らしき青年が現れた。
その青年は我々の車をちらっと見やると、平然とした顔ですーっとそのオフィスに入っていく。
・・・怪しすぎるだろ。なんなんだ、このタイミングの良さは。
日本人が旅行会社と結託して日本人を騙すというのもよくある話である。

「ふざけんなこのくそじじい!」と今にも叫んでしまいそうになったまさにその時、大学生カップルの男がこういった。

「わかった。あなたの言いたいことはわかった。この旅行会社はグッドだ。いいホテルを紹介してくれるハズだ。  でも、僕らは駅(メインバザールは駅前)に行きたいんだ。駅まで行ってくれる?」
「・・・オーケー」


今まで頑として動かなかった男が、多少ふてくされてはいたモノのあっさりと承諾し車のエンジンをかけた。
その後はもう諦めたのかなんなのか、何処に寄り道する事もなく車は無事ニューデリー駅前に着いた。

インド人は一般的に議論好きである。そして、自分が正しいと思っている限り、意見を引っ込めない。
だから、そのインド人を黙らせる方法は、彼の意見をとにかく認めてやるに尽きる。このことはインド人とちょっと衝突する度に実感することだ。

「あんたは正しい!」って言えば少しは気が収まる。
「本音と建て前」は違うとか、「空気を読め!」とか言う考え方はほぼ100%通じない。
曖昧に返事をしていると、ガンガン御託を並べまくり、口を挟む隙がなくなるから要注意だ。
ストレートに言葉で納得させたり、議論でインド人を論破するのは大変だし、何よりもう面倒くさい!


大使館もなぜか毎日のように閉まる。毎日がシヴァの祭りだ。

2日後、エアインディアのオフィスで「インドは二回目なんでー、別にどうってことないっす」なんて言っている若者に会った。「リキシャに乗るのも余裕だしーっ。値切るのなんて楽勝っすよ」てなカンジだ。
今回はデリーでパキスタンのビザを取ってパキスタンに遊びに行こうと思っているらしい。

そんな彼だが「でも今日は、シヴァの祭りがあるから、パキスタン大使館まではリキシャで行けないって言われたんですけど、本当ですかね?」なんて言う。
おいおい、何でそんなこと信じているんだ(笑)

インドにいるとなぜだか毎日のようにシヴァの祭りで道路が通行止めになる。
メインバザールに行きたがるツーリストを騙す手口としてよく聞く台詞だが、大使館の前もお祭りで通行止めときたか。

「そんなわけないじゃん。大使館やってるよ」「え?・・・やっぱあのオヤジ・・・ウソだったのかよー」

やはり一度や二度の訪印ではインド人の口のうまさには勝てない。

かくいう私も、「今回こそインド人には負けないっ」と気合いを入れてやってきたが、入国して2日目にあっさりとしてやられた。どうも彼らの方が一枚上手である。

「このバスのチケット高すぎるよ。ぼられちゃってるって。コンノートプレースにITDC(インド観光開発公団)のオフィスがあるから払い戻した方がいいよ。チケット買い直しなよ。」

路上で偶然会ったスィク教徒の青年の台詞である。

1人で暇だった私は話しかけられるがままに彼と適当に話をしていた。 そして、話がそれなりに盛り上がってしまい心を許した時に「チケットぼられてるよ」なんて言われたモノだから、つい「あら、そうなの?」と信じてしまった。

「コンノートのオフィスまで一緒に行ってやる」と言っていたはずなのに、リキシャはコンノートプレースの中をあっちこっちぐるぐると回ったあげくに、幾ばくか離れたブロックのオフィスにたどり着いた。
看板にはしっかり「ITDC」と書いてある。

「ここコンノートプレースじゃないじゃーん」「ここは第二のコンノートプレースだ」

ウソばっかり。

コンノートプレースは、真ん中の公園を中心に同心円上に似たような商業施設が並んでるので、初めての人は方向感覚を失うことが多い。つまり、リキシャでぐるぐる回ったのは、どこをどう走ったかわからなくするためである。
でも私はデリー初めてじゃないし、ちゃんと町歩きしているからどこをどう廻ったかわかってるよ。
(その前に、簡単にリキシャに乗ってしまった事が軽率なんだよ)

興味半分で連れて行かれたオフィスの中を覗いて見ると、色白でちょっと癖のある茶色い髪の男が
不敵な笑いを浮かべ、私を待ちかまえていた。
その男は、顔も髪も色素は薄いが、眼球の色まで薄い灰色でなんだか妖怪の様な風体である。
牙が出てきて血とか吸われそう。

「OH! ベぇリーエクスペンシブ・・・。」

男は、私のバスチケットの値段を聞くなり、大げさに驚いた表情を作る。

「そのチケットはキャンセルしなきゃだめだね。全くけしからん!」とまだITDCの職員のフリをしていたが、
そのあとに言った台詞が良かった。

「・・・ところで、シュリナーガルに行かないか?」

行くわけないだろ!

シュリナーガルは、昔からムスリムである地元住民とヒンズー教徒である藩王との間のいさかいが耐えないところだ。
そして、パキスタンとインドはお互いにここいらは自国領だと主張しあっている。
ガイドブックなどを見てみるとわかるが、インドの本ではこの辺はインドの領域として国境線が書かれており、パキスタンの本ではパキスタンの領域になっている。旅人と現地の人とでもめ事を起こさないようにとの配慮なのだろう。

このあたりはいつ銃撃戦が起きてもおかしくないくらい緊迫したところで、だから観光客が減ってしまって、観光を生業にしているカシミール人は収入をたたれて困っているのである。

そういった政治的、宗教的背景はこの際置いておくとしても、シュリナーガルである。

ちょっと前のインドでは「シュリナーガルに行かないか?」と持ちかけられ、何となく言われるがままチケットを買ったら、途中の変な町でバスを降ろされたとか、料金の払い戻しを要求したら逆に脅されて泣き寝入りしたとか、そう言ったトラブルが多かった。

キーワードは決まって「シュリナーガル」だ。

今回新調したガイドブックにはその手のトラブルが載ってなかったし、「ヤツらいなくなったのかな?」と思ってた。
・・・いましたね、ここに。そうか、事務所を移転したのか(笑)

それにしても昼間だったから地理が混乱せずにすんだけど、夜だったらどうするんだ。あぶないったらありゃしない。
わかってはいるつもりなんだけど、平和ぼけした日本人のあたしはいつも言いくるめられちゃうというか信じちゃうというか。
インドの悪者はとにかく演技がうまいんだよなぁ。

ま、こんなアホみたいな手口に引っかかるのは日本人だけみたいです。

「なんでそこでついて行くわけ?日本人だけだよ、初めての人とすぐ話しちゃうの。韓国人もイスラエリもみんなインド人に話しかけられても無視するよ!」

後日、一部始終を話したインド人に説教された私。
あなたみたいにいい人もいるから、大半のインド人はいい人だってわかっているから、話しかけられると受け答えしちゃうんだよ~。 そして、1人旅だから暇なのも手伝って、つい・・・。

でも、今度こそ負けない!

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